長き恨みの歌物語 (七)

臨キョウの道士 鴻都の客
能く精誠を以て 魂魄 を致す
君王展転の想いに感ぜしが為に
遂に方士をして慇懃に覓めしむ
空を排し気に馭し 奔ること電のごとし
 天に昇り地に入り 之を求むること遍し
上は碧落を窮め 下は黄泉
両処 茫茫として 皆見えず 

忽ち聞く 海上に仙山有りて
山は虚無縹渺の間に在り
楼閣は玲瓏として五雲起こり
其の中に綽約として仙子おおしと
中に一人有り 字は太眞
雪膚花貌  參差として是なり

ここに、蜀の地は臨キョウからやって来て都に仮住まいをなす道士がおる。
誠の心をこらして祈念すれば魂をも招き寄せるのだという。 名は楊通幽。
奇しくも亡くなったかの人と姓をを同じうしていた
道士は、君主が寝もやらず貴妃をしのんでいるのに感じ入り、
とうとう配下の修行者に命じて懇切に探索させることとした。
さて、命をうけた修行者は、天空をおしひらき、精神力を駆使し、
いなずまのごとくかけまわり、 天に昇り地界に入り、残るくまなく探し求めた。
上は碧空のきわみまで、下は黄泉の果てまでも探し求めたものの、
両処ともはてしなくひろがる空間があるばかりで、いずことも見当たらなかった。
★ ★ ★
と、修行者はききつけた。
海原のはるかかなたに、、絶対無の支配する世界に、ひとつの仙山がある。
内側から光をはなちつつ楼閣はすき透って仙山にそびえ立ち、
五彩の雲がそこから湧き起こる。
あでやかな仙女の多く住むそのなかでも、 ひときわてりはえるおかたがいらっしゃる。
そう、その人の名は太真とか。
雪なす肌、花の貌のそのかたこそ、
まさしく探し求めている人ではなかろうか。

第七段より「長恨歌」は後半部に入る。これまでの現実世界での二人の悲恋を叙事してゆくタッチから一転して、夢幻世界での二人のロマンスが伝奇小説的な筆到でうつし出されてゆく。まずは道士の登場。武帝が亡き寵姫である李夫人に再び逢うために道士の手引きが必須であったように、我々も、亡くなった貴妃の所在を求めて仙界に浮遊するためには、方術の士の案内が必須である。
修行者の活躍によって、次第次第に貴妃の所持が判明してくる。果たして我々は貴妃にあえるであろうか。