~ ~ 『 寅 の 読 書 室  Part Ⅶ-Ⅲ』 ~ ~

== 現 代 語 訳『平 家 物 語 上』 ==

著 者:尾崎 士郎
発 行 所:株式会社 岩波書店
東 宮 立  ♪
その年は喪中のために即位の行事も取りやめになったが、暮れの二十四日、東の御方、建春門院けんしゅんもんいんの腹になる、後白河院の皇子に親王の宣旨せんじがあり、明けて、年号が変って仁安にんあんとなった。この年の十月、この皇子が東宮になられたが、何と東宮は伯父おじで六歳、天皇がおいで三歳という、全く政権争いの恰好な道具でしかなかったのだ。
仁安三年には、この天皇が位を伯父の東宮に譲り、新院になった。新院は五つ、天皇は八つ、西も東もわからない、いたいけない幼児たちは、この頽廃たいはいした院政の、最も大きな犠牲者だったのである。
というのも、新しく即位した高倉たかくら天皇の母は平家の一族、清盛の義妹に当たり、大納言だいなごん時忠ときただは義兄である。今や、天下の政事は八歳の子供の手を離れて、ことごとく平氏の一門の思いのままになったわけで、官の任免を始めとして、清盛は、何かと、時忠を重宝がったので、彼の事を世間では、平関白へいかんぱくなどと言ったりしていた。
2023/10/24
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