胡越=胡は、中国北方の異民族(非漢族)の総称、越は、南方の異民族。そこから、
胡越で地を遠く離れて相い逢ううことのないことや、また全く無関係であることに用いる。
宇宙=宇はすべての空間をいい、宙はすべての時間をいう。天地四方と古今。
大道=正しい道。古今東西、万物に通ずる道であるから大という。
白日=かがやく太陽。
華夷=華は中国、夷は異民族で中国国外の地を意味する。ただし、ここでは日本と外国の意で用いていよう。
高山与景行 仰行豈復疑=高山を仰ぎ大道を行くのは疑う余地もない当然の行為であることをいう。
誰肯甘為之=肯は、ここでは敢と同じで、不本意なことを押しきってやること。甘は、平然と受け入れること。
一諾=ひとたび承諾する。
漢初の将軍季布が一度承諾してくれたならば千金を貰うよりも確かだという、いわゆる 「季父に一諾」を踏まえる。
この時、松蔭は宮部鼎蔵、江幡五郎、と意気投合して、ともに東北周遊に出ることを承諾してしまっていた。
流落=落ちぶれて他国に流れさすらうこと
負=背に同じで、背き誤つこと。ここでは松蔭が藩命に背いて出奔すること。
|
|
一別 胡越の如く
再逢 已に期する無し
頭を挙げて宇宙を観れば
大道 到る処に随う
名月 今古無く
白日 華夷に同じうす
高山と景行と
仰行 豈に復た疑わんや
不忠不幸の事
誰か肯て甘んじて之を為さん
一諾 忽せにす可からず
流落 何ぞ辞するに足らん
縦い一時の負を為すとも
報国 尚お為すに堪えたり
|
※嘉永四年(1851) の作。二十二歳。
この年の十二月十四日、松陰は江戸桜田の長州藩邸から許可を得ないまま出奔し、翌年四月まで東北地方を周遊した。
|
|