その艶
なる公達が。 そして、まだ二十四の君が。 いま、強武者こわむしゃ
十万と号する三軍を率い、驍勇ぎょうゆう
、木曾義仲の追討を命じられ、都をあとに、この越路こしじ
へ来ているのだと思うと、多少の不満は覚えても、 「この君を扶たす
けぬことには」 と、情においては、みな一致した。 また、維盛とて、決して、暗愚な大将というわけではない。むしろ、こんどの北陸入りは、いじらしいほど、内心、雪辱せつじょく
を誓っている。 かの、富士川敗戦の汚名をである。 美濃みの
の墨俣すのまた では、新宮行家を破って大勝した。しかし、あのさいの総帥は、宗盛の弟重衡であり、彼の汚名はまだぬぐわれていない。 それかあらぬか、宗盛は、またこんども斎藤別当を、中軍に付けてよこした。実盛の人物は、富士川でよく分かっている。この老人の経験は、おろそかにしまいと思う。 維盛は素直に、彼をそう容い
れている。その気持が、思わず笑くぼになったものである。 「・・・・では、実盛が献策と申す、その策なるものを、聞こうではないか」 経正への誤解を解いて、維盛は、まったく、ことばの調子までを、明るくした。 「斎藤の別当。これへ進んで、詳しゅう、おはなし申し上げよ」 通盛も、上座から、うながした。 「は・・・・はあ」 実盛は、遠くで、うなずいている。どうも、あいまいな顔つきである。身を前屈みに乗り出し、耳のそばへ、手をかざした。なお何か、受け答えでもしようというのらしい。 人びとは、クスクス笑う。それを、気の毒そうに、淡路守清房が、 「さすが、斎藤の別当も、つもるお年、ここ両一年に、とんと、耳が遠くなり、髪もあのように真っ白になった。──
実盛が献策は、自分も動座して聞いていた。実盛に代わり、それがしが申し上げよう」 と、救いを出した。 清房は、維盛の叔父であり、副将の一人。 たれにも、異議はない。その彼が、実盛に代って述べたのは、諸情報に総合された北陸の敵状であり、それへの味方の方針であった。
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