内大臣
の殿との が、お座船より、お戻りなされました」 彼の姿を待っていた衆座のあいだへ、告げ渡されると、能登守のとのかみ
教経のりつね は、すぐ座を立って、小舟から上がる宗盛を待ち
── 「御着席のまえに、ちょっと、お耳を拝借したいのですが」 と、人なき方へ、彼の姿を誘って行った。 立ち話の形で、すぐ、教経から口を切った。 「大理どのの処置について、さだめし、御不満を抱いて、お戻りでございましょうな」 「うム。わしのさしずも仰がず、おことが独断にて、時忠どの始め、子息や家臣までを他の船へ移したという・・・・そのことか」 「そうです。お怒りはございませぬか」 「怒るにも何も、この宗盛は、何もたしかな仔細しさい
を聞いておらぬ。大理どのと、争いさか
いしたとは、まことか」 「争いさか
いは、解けております。まず、表面だけは」 「と申すは、なお、腹では解けぬと申すことか」 「腹の底までは、いかんせん、わかりかねまする。・・・・で、万が一の用心のために」 「用心とは」 「ひょっとしたら、大理どのには、裏切りを思うているやも知れませぬ。かねてより、源氏に対し、和議の途を開かんものと、何かにつけ、策を思うておらるることは、おおいえません。・・・・これは、御総領におかれても、薄々、お気づきでございましょうが」 「・・・・うム。そのようなふしもないではないがの」 「戦のない日なれば、あの君が、どう画策を巡めぐ
らそうと、充分、われらも見ておりますが、かかるさいには、どんな思い切った挙きょ
に出ないとも限りませぬ。もし、われらが血眼ちまなこ
になっているすきに、神器、玉体を載せまいらせたまま、お座船を他へ隠されでもしてしもうたら、いかに、あとで地だん踏んでも、追いつきませぬ。・・・・で、念のため、独断にて、お聞き及びの通りに計はか
ろうたわけでございまする」 「よう、時忠どのが、承知したな」 「教経には、武力があります。大理どのもまた、今朝、それがしに、悪いおりを見つけられ、後ろめたく思われてか、この教経を多分にはばかっておる様子です。・・・・しかし、こよいの軍議においては、その辺のこと、一切、お口にお出しくださいますな。内輪の違和いわ
は、味方の不利。いめ、御秘密に」 「うム。いうまい。・・・・そのようなこと、いうてよいものか」 二人は、連れだって、席についた。 |