虞姫は首筋が細くしなやかで、青く血すじが透けて見えるほどに皮膚が薄かった。臥床ふしどのなかで触れてみると、項羽の掌に脂がしみてゆくようなぬめりがあった。そのくせ胸が少年のように薄く、さらには命を湛たたえたその腰も意外に小さかった。
「いくつだ」
あらためて虞姫の目を見つめつつ齢を聞いた。
「十四でございます」
虞姫の瞳に涙があふれ、光りが青くなった。まさか涙が青いはずはあるまいと思いつつ項羽は虞姫の阜おかに触れつづけていた。虞姫のそのあたりはみずみずしく脹ふくらんでいたが、しかしその素絹しろぎぬのような皮膚を飾るべきものが、まだ与えられていないようであった。
「虞よ」
項羽は立ち上がってこのしなやかないきものを抱き上げると、別な臥床の中に移してやった。虞姫は驚き、しばらく声も出ぬ様子で項羽を見つめた。目が柳の葉のように細くなっている。白眼のほうがまつ毛の翳かげを黒く帯びて光り、そのあまりの妖あやしさに、
(こどもではないか)
と思つつも、項羽は狼狽ろうばいした。
「陛下。──」
虞姫が、叫ぶような声で言った。
「陛下に嫌われたくはありませぬ」
と言うと、一気に衾ふすまをかぶり、はげしく欷なきはじめた。虞姫は素肌を項羽に見せた時、すでに殻からが割れて果汁があふれ出るように別の人格が生れてしまった。項羽への愛が出発したとも言えるし、わが身を頼らせる人は天涯にこの人しかいないという、せきあげるような感情が、血の匂いとともに生まれたともいえる。
「虞よ」
項羽は戻って来て、衾の上から掌の体温を伝えるようにして叩いてやった。
「桃の唇つぼみが陽に向かううちに自然にほころびるように、娘もほころびを待たねばならなぬ」
(この人は鬼神というではないか)
虞姫は、楚その士卒たちが項羽に対して感じていることをこの時思い、鬼神のような力を持っているならなぜ自分をこの人にふさわしい体に変えてくれないのか、と思ったりした。
「陛下のお力ならば」
なんとかなるはずではないか、とせがむようにして欷ないた。
「わしができるのは戦いくさだけだ。劉邦というずるがしこい奴をこなごなに砕いて天下を獲とることならば出来るが、そちのこのあたりは」
項羽は生まれたての仔兎こうさぎのようなそのふくらみを掌でつつみつつ、
「陽にまかせよう」
と言った。 |
2020/07/05 |
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