~ ~ 『 寅 の 読 書 室  Part Ⅵ-Ⅳ』 ~ ~

 
== 『 人 間 の 証 明 』 ==
著 者:森村 誠一
発 行 所:㈱ 新 潮 社
 
巨大な獄舎 (1-03)
横渡と棟居は、八杉恭子をマークすべき人物とした捜査会議に出した。
「すると、君らの意見では、八杉恭子がジョニーと婆さん殺しにからんでいるというのだな」
那須が目を半眼にして言った。
「疑いは強いと思っています」
「かりに、八杉恭子を犯人とした場合、動機は何だ?」
これは当然予測していた質問である。
「中山種を殺害したのは、婆さんがジョニー殺しについて何かを知っていたからだと思います」
「その口を封じるためだな。しかしジョンーはなぜ殺したんだ? ジョンーと八杉の間には何のつながりもなさそうだが・・・」
「それはこれからよく探ってみないとわかりません。何か隠れた関係があるのかも知れません、ただ・・・」
棟居がふと言葉を切った。
「ただ、何だな?」
「中山種が大室よしのにてた葉書によると、種は昭和二十四年七月に霧積で八尾出身の人物Xに会っています」
「そのXが八杉恭子だというのか?」
「断定できません。ただ霧積のようなあまり知られていない山奥の温泉を訪れた八尾出身者というと、数はかなり絞ってよいと考えられます」
「かりに、Xを八杉とすれば、理由はそのとき霧積へ行ったことを伏せたかったからだと思います」
「なぜ伏せたがるんだね?」
「中山種の葉書の文面から察するに、Xには同行者のいた気配がうかがわれます。その同行者を隠したかったのではないでしょうか?」
「その同行者は、郡陽平ではなかった。Xが八杉恭子であれば、それを旦那だんなの郡に知られたくないというわけだな」
「そういうことです」
「しかし、そんな古い過去のために、婆さんを殺すことはあるまい」
「中山種は、その同行者について、── まだ同行者と確定したわけではありませんが ── 非常に珍しい人間と書いています。つまり外国人だったのではないかと思います」
「外国人だと? しかし、それがジョニー・ヘイワードとどんなつながりがあるのだ。ジョニーは、昭和二十四年には生まれていなかったはずだぞ」
「その秘密を解くかぎが、西条八十のこの詩にあります」
棟居は、おもむろに「麦わら帽子の詩」のコピーを取り出した。全員の目が棟居に集中した。
2021/10/24
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