桜井の言った期日はせまって来ていたが、言っていた通り、ある日辰川の親分は「川北」を見に赤坂へやって来た。直接香世や明子から事情を聞いた後で、二人の後にひかえていた武馬を含めた三人へ、
「詳しいことは明後日、私の家へ来て頂いて決めさせて頂きましょう」
口ぶりでは悪い返事ではなさそうに見えた。
礼を言う明子に、
「私は何も慈善は出来ませんが、── しかし出来る限りでお二人を助けてあげたいと思っている」
親分は言った。
翌々日、三人は親分の家へ行った。
話の前に武馬が、
「僕は本当は今日ここまで来る必要のない人間ですが、お話の前にひとこと申し上げたくて来ました。どういう条件でお話が決まるかは知りませんが、もし、万が一、その金がいらずぬすむようになればこの話は無かったことにして下さい。勿論、それまでの親分の御好意に感謝する心は変わりませんが ──」
「と言って、なにかあてがあるのかい」
親分に訊かれて香世は首を振った。
「武馬さん、あんたが他に何か」
「はあ、いえ、それはその時までお訊ねにならずに下さい。僕はこの事で博打を打ってみるつもりです」
明子が不安そうに彼を見た。
「いずれにしろ誰にも迷惑はかけませんから。それじゃ僕は次の部屋で ──」
親分も香世も明子も解せない表情でただ頷いた。
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