~ ~ 『 寅 の 読 書 室  Part Ⅶ-Ⅳ』 ~ ~

 
== 『 燃 え よ 劍 ・下』 ==
著 者:司馬 遼太郎
発 行 所:㈱ 新  潮  社
 
 
 
 
 
お 雪 と (四)
歳三の公用、とは、江戸で隊士を募集することであった。
「歳、こんどはお前が行ってくれ」
と、近藤が頼んだ。
隊士は、減りつつある。理由は闘死、そのほか隊中での切腹、逃亡、病死など。
そrに今度の伊東派の分裂である。伊東派の退去は、表だっては幹部十五名だが、なお隊内に残っている者の中には、伊東甲子太郎がことさら隊内撹乱のための間諜として残した者が歳三の見るところ十人ほどおり、ほかにも、挙動不審な者が数人いた。
人数、はいよいよ減るだろう。
しかも、新選組が幕府の官制による正規軍となり、身分も直参となった以上、人数はいよいよ必要なのである。
いま、百数十名。
あと一騎当千の者五十人はほしかった。
「高台寺の伊東のほうでも、ちかぢか、関東で募兵をしようとしているようだ」
と、近藤は言った。
「私もきいている。さの字の話だろう」
「ふむ、さの字」
あの字とは、斎藤一。
江戸以来の同志で、三番隊組長、隊の剣術師範役だった男である。
伊東派に奔った。
というのは表むきで、伊東派の動静をさぐる諜者になっている。
2024/03/13
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