官軍の陣所になっている百姓家まで、ひとすじの田ンぼ道がつづいている。
近藤は、部下二人に先導させ、ゆっくり草を踏みながら歩いた。
やがて、柴垣をめぐらしたその百姓家の前へ来た。官兵が銃を擬して、さえぎると、
「軍使です」
とおさえ、隊長に会いたいと言った。
やがて、座敷に案内された。
「大久保大和です」
と、近藤は言った。
有馬は、薩人らしいやわらかな物腰で、用件を訊いた。
そばに、香川敬三がいる。
有馬も香川も、近藤の顔は知らない。しかしその特異な風貌ふうぼうは、聞き知っている。
(まぎれもない。──)
香川の眼が青く光った。
「今朝来」
と近藤は言った。
「官軍と気づかず、部下の者が不用意に発砲しました。おわびに来たのです」
「あれは不都合でごわしたど。御事情もあり申もそが、いずれにせよ、お申しひらきは、ご足労ながら粕癖の本陣でしていただかねばならぬ。それに、ただちに銃砲を差し出されたい」
「承知しました」
とうなずいた近藤の心境は、歳三にはわからない。
「一たん、帰営の上で」
と、近藤は戻って来た。
|