黒崎主任は、煙草を一服つけて、天井を向いて煙を吐いた。それから机に肘を突いて考えていた。
「みんな揃そろっているかい?」
主任は、そこにいる連中に声をかけた。
その一人が部屋の中をぐるりと見ますようにして、
「だいた、揃っているようです」
と言った。
捜査会議が開かれた。
その席上で、主任は言った。
「この事件は、最初の見込みと違って、ひどく難航している。現在のところ、被害者の足取りはさっぱりわかっていない。ただ、トリスバーで話し込んでいたという相手の男を、有力なホシと考えるだけで、こっちの方もさっぱりわからない。ただ、期待は、カメダという名だけだ」
主任は、そこまで言って、大儀そうに茶を飲んだ。
「四日前に、今西君からの注意で、カメダは人名でなく土地の名前ではないか、という知らせがあった。それはもっともと思うので、さっそくカメダの地名のある、秋田県の岩城署に照会したところ、今、その回答があって、カメダは岩城町亀田地区ということがわかった」
主任は、一息ついて、話をつづけた。
「岩城署からの電話の内容は、こちらの二日前、つまり、今から約一週間前に、その亀田地区をうろついていた人間があったという。詳しいことは電話ではわからにちょいう話だが、この亀田は、現在では非常に重大な材料だと思う。それに、今の電話でも、現地にこちらの本部員を派した方が、この捜査に有利な展開になると思う。みなさんの意見はどうでしょう?」
主任は、皆の意見を求めた。
それについては、出席の本部員全員が賛成した。現在、捜査はお手上げ状態である。いわば、藁わらにでもすがりたいような状況だった。
捜査員の派遣のことは、すぐ決まった。
「今西君」
と、主任は言った。
「君がその地名を見つけたのだ。ご苦労だが、行ってくれるかね?」
会議の机は。、コの字型に並べられてあったが、その真ん中あたりから、今西が頭を下げた。
「よろしい、それから、もう一人、ついて行ってほしいが、それには吉村よしむら君がいいだろう」
主任は、顔を反対に向けた。
並んだ机の末席から、若い男が椅子から立ちあがった。
「承知しました」
吉村弘という若い刑事だった。
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