またジープに乗せて貰った。
町角に来ると、駐在所が見えた。今西は、車を止めてもらった。
駐在所をのぞくと、若い巡査が机に向かって何か書いていた。つづきになっている住居には、青いスダレが垂れて風に揺れていた。三木謙一が勤務していた駐在所なのである。古さからいって、その時とは変わっていないように思われる。
今西は、何か記念物を見るような思いがした。あまりに三木謙一という人物を深く知り過ぎると、こういうものにも一種の感慨を催すのである。
また元の道へかえった。
亀嵩の部落に別れて、川沿いの一本道を走った。今西は、秋田県の亀田では手がかりらしいものがあった。だがこの亀嵩では何一つ残っているものはないのである。
今西は、秋田県の亀田で聞いたあの妙な男のことが心に浮んだ。あの男はいったい何者だろう。事件に関係があるのか、ないのか。
ジープは、田も畑もない山峡を戻っていく。
それにしても、三木謙一は立派な人物だった。その人がなぜ顔まで潰されるような悲惨な殺され方をされなければならないのか。
犯人はよほど三木謙一を恨んでいたと思われる。人格者が人に恨みを買うというのは、こちらで気づかない別な理由があるのだろうか。
あんな殺し方をした犯人は、相当な返り血を浴びているはずだが、その処分をどうしたのか。
犯人は血のついた衣服を自宅に隠匿しているのだろうか。これまでいろいろ事件を手掛けて来たが、そんな場合、犯人はたいていそれを天井裏に隠したり、床下に埋めたりする処置をとっていた。
今度の場合はどうだろうか。
今西は、以前にも吉村に話したことがある。犯人は車で逃げたのだ。自宅には直接帰っていない、途中に中継地を持っていて、彼はそこで血染めの衣服を脱ぎ、別な衣服に着替えて帰ったに違いない、と、今でもその考えは間違っていないと思っている。
そのアジトはどこか。やはり最初の見込み通り、蒲田を中心とする近い場所か。そのアジトは犯人の愛人のいる家か。
亀嵩の駅が見えて、道は線路に接着した。半鐘を吊った火の見櫓が見えた。
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