~ ~ 『 寅 の 読 書 室 Part Ⅶ-Ⅵ』 ~ ~

 
== 『 永 遠 の 0』 ==
著 者:百田 尚樹
発 行 所:㈱ 講 談 社
 
 
 
 
 
真 珠 湾 (八)
ところで私たちの戦いを理解するには、「艦攻かんこう」と「艦爆かんばく」のことを知っていただく必要があります。耳慣れない言葉と思いますが、日米両国とも「艦攻」と「艦爆」ほど、その身を犠牲にして激しく戦った飛行機はありません。そしてその搭乗員の四方率は一番高かったのです。
「艦攻」というのは三人乗りの艦上攻撃機の略で主に魚雷攻撃を行なう飛行機です。魚雷は何も潜水艦だけの武器ではありません。魚雷攻撃のことを「雷撃」というのですが、これは艦船にとって最も恐ろしい攻撃です。船の下っ腹に穴を開けられるのですから、そこから大量の水が艦内に流れ込み、ふねくは沈みます。不沈戦艦と言われた「大和」も「武蔵」もこれで沈められました。
「艦爆」というのは二人乗りの艦上爆撃機の略で急降下爆撃を主任務とします。もちろんこれも恐ろしい攻撃です。二千メートル以上の上空から急降下して爆弾を投下するのです。爆弾は艦の甲板を突き破って、艦内で爆発します。軍艦の艦内には砲弾や燃料などが一杯です。それらに引火すれば大惨事を引き起こします。また推進機関に当たって爆発しても致命的な損傷となります。
これらの航空機攻撃に対抗するのは艦の対空砲と機銃ですが、これはなかなか当たるものではありません。秒速百五十メートル以上の速度で飛ぶ飛行機を砲と機銃で撃ち墜とすことは至難です。
そこで「艦攻」「艦爆」から最も効果的に艦を守るのが戦闘機です。戦闘機は艦が襲われる前に艦攻や艦爆を撃ち墜とすのです。先程も言ったように艦攻も艦爆も重い爆弾や魚雷を抱えていますから、身軽な戦闘機に襲われればひとたまりも「ありません。そこで彼らを守るために戦闘機が護衛するわけです。「艦戦かんせん」つまり艦上戦闘機というのは、敵の攻撃と艦爆から艦を守る任務と、味方の艦攻と艦爆を護衛する二つの任務のために作られた飛行機なのです。
私と宮部は艦上戦闘機の搭乗員でした。

私たちは「赤城」の搭乗員になった時から猛烈な訓練を始めました。
本当に休みなしに、死ぬほどの訓練を何ヶ月もやりました。そう「月月火水木金金」です。そこ頃の第一空戦隊と第二航空戦隊の搭乗員たちの飛行時間は軽く千時間を越えていました。もう超ベテランばかりdせす。自分で言うのも何ですが、当時の我々の戦闘能力は世界最強だったでしょう。何しろ世界最高の飛行機に、世界最高クラスの搭乗員が乗っていたのですから」
厳しい訓練を終え佐伯湾に結集した機動部隊は、十一月の半ば北に針路を取りました。
搭乗員には防寒服が支給されましたが、行き先はまったく知らされてはいませんでした。何かしら特別なことが行われるというのは感じていましたが、それが何なのかはまったくわかりませんでした。
当時は日中戦争の真っ最中で、中国一国相手にも手を焼いている状況でした。しかし米英が日本にものすごい圧力をかけているのは知っていました。同盟国ドイツは既に英国と戦争状態に入っていましたから、日本もいずれ英米と戦うことになるかも知れないという空気はありました。それに、海軍は長い間、米英を仮想敵国として訓練してきたのです。
2024/08/23
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