これが私の見たミッドウェーの戦いです。
戦後になって、この時のことが「運命の五分間」と言われて有名になりましたね。あと五分の猶予があれば、我が方の攻撃隊は全機、換装を終えて発進していただろうから、仮に同じような爆撃を受けたとしても、甲板上の爆弾の誘爆は避けられたから、空母は沈むことはなかったであろうと。だから、あれは運が悪かったのだと。
しかしそれは嘘です。敵の急降下爆撃を受けた時、換装終了までは程遠かったのです。あとどれぐらいで換装が終わったのかはわかりませんが、少なくとも「五分」などということはありません。
歴史にタラレバはありません。あの戦いも運が割るかったわけではありません。よろうと思えば、もっと早くに発進出来たはずです。陸上用の爆弾でも何でも、先に敵空母を叩いてしまえば良かったのです。それをしなかったのは驕りです。
またこの時、米軍の雷撃機は護衛戦闘機なしでやって来ました。雷撃機が護衛の戦闘機なしで攻撃するなど、自殺行為です。現実に零戦にすべて墜とされました。しかし結果として、それが囮の役目になりました。母艦直衛の零戦は雷撃機に気を取られ、上空の見張がおろそかになりました。その間隙かんげきを突かれ、遅れてやって来た急降下爆撃機にやられたのです。
これはたしかに運が悪かったと言えますが、私にはそうは思えません。後に知ったことですが、米軍は日本の空母部隊を発見した時、とにかく一刻も早く攻撃しようと、戦闘機の配備が間に合わなかったにもかかわらず、準備の整た攻撃隊から順次送り込んだというのです。
私はこの時の米軍の雷撃機の搭乗員たちの気持を考えると胸が熱くなります。彼らは戦闘機の護衛なしに攻撃するということがどんなことかわかっていたはずです。
「ゼロ」の恐怖を十分に知っていたはずです。自分たちはまず生きては帰れないだろうと覚悟したに違いありません。にもかかわらず彼らは勇敢に出撃しました。
そして必死に我が空母に襲いかかり、零戦の前に次々と墜とされてしまいました。しかしその捨身の攻撃が、母艦直衛機の零戦を低空に集めさせ、急降下爆撃機の攻撃を成功に導いたのです。
私はミッドウェーの真の勝利者は米軍雷撃機ではないだろうかと思います。珊瑚海海戦で、燃料切れを知りながら、味方を誘導した我が索敵機の搭乗員も、この時の米軍の雷撃機も、戦争に勝つために自らの命を犠牲にしたのdす。
国のために命を捨てるのは、日本人だけではありません。我々は天皇陛下のためという大義名分がありました。しかしアメリカ人は大統領のために命は捨てられないでしょう。では彼らは何のために戦ったのか ── それは真に国のためだったということではないでしょうか。
そして実は我々日本人もまた、天皇陛下のために命を懸かけて戦ったのではありません。それはやはり愛国の精神なのです。 |