私はここで初めての空戦を経験しました。
第三小隊の三番機として参加したポーモレスピーの空襲の時でした。この頃、日本の戦闘機隊の小隊は三機編成で、小隊長が二機を率いて戦うという戦法でした。私の任務は敵基地上空の制空です。
モレスピー上空で、突然、小隊長は急旋回を始めました。二番機もほぼ同時に旋回しました。私は慌ててそれにいきましたが、二機の動きが早くて、あっという間に離されました。中隊全体が急速な動きを取りはじめたのです。一体なぜそんな動きをするのかも全然わかりません。それでもとにかく少尉隊長機を追いかけるしかありません。当時、零戦に無線機は積まれていましたが、これはまったく役に立たないものでした。私たちは以心伝心で戦っていたのですが、それには限界があります。あの頃、いい無線機があれば、ずっと楽な戦いが出来たことでしょう。
とにかく小隊長機と二番機は上へ下へと動いていきます。私は必死で追いかけます。自分がどう飛んでいるのかさえわかりません。数分後、ようやく二機は水平飛行に入り、やっとのことで追いつくことが出来ました。
一体何だったのかもわからまいまま基地に戻りました、ここで初めて自分たちは敵機と空戦をしたことを教えられました。
そりゃあ驚きましたよ。敵機なんて一機も見えなかったのですから。小隊長に聞くと、敵機は十数機いたそうです。しかも小隊長と二番機で一機墜としたというのですから、もうキツネにつままれた思いとはこのことです。この時の戦闘で味方は全部で十機近い敵機を撃墜したと」いうことです。
随分、落ち込みましたよ。敵機も見えないのに空戦がうやれるのかと思いました。しかし二番機の林三飛曹に「俺も最初の頃は敵機がまったく見えなかったよ」と慰められました。 |