トニーは、ミヤベ、キュウゾウと何度も繰り返しました。そして言いました。
「彼に会いたかった」
「恨んでないのか」
「なぜ恨む?」
「パラシュート降下しているあなたを撃ったのですよ」
「それは戦争だから当然だ。我々はまだ戦いの途中だった。彼は捕虜を撃ったのではない」
そうだったのかと思いました。
「彼はあなたのことを、恐ろしパイロットだったと言っていました。そしてあなたを撃ったことを苦しんででいました」
トニーは目をつむりました。
「ミヤベは本物のエースだった。私はその後も何度もゼロと戦ったが、あれほどのパイロットはいなかった」
「立派な人でした」
トニーはわかっていると言いたげに、何度も頷きました。
「ガダルカナルのアメリカ人パイロットは強かった」
私の言葉に、トニーは首を振りました。
「俺たちが勝ったのはグラマンのお陰だ。グラマンほど頑丈なやつはなかった。俺が今こうして生きているのは操縦席の背面板のお陰だよ」
「何度もグラマンに命中弾を与えたけれど、なかなか堕ちてくれなかったよ」
「俺たちはいつもゼロを怖れていた。四二年当時、日本の飛行機は少数だったが、乗っている奴は腕利きばかりだった。遊撃のたびに飛行機を穴だらけにされた。何機スクラップにされたかわからない。俺たちは十回殴られて、ようやく一回殴り返すような戦いをしていたんだ。しかしその一発のパンチでゼロは火を噴いた」
まさしく彼のいうとおりだと思いました。
「ガダルカナルでは我が軍に多くのエースが生まれました。かく言う俺もその一人だが ──」
トニーは悪戯っぽく笑いました。
「だが、俺も含めてみんなゼロに墜とされている。スミス、カール、フォス、エバートン、海兵隊の誇るエースたちはたいてい一度はゼロに墜とされているんだ。日本のエースジュンイチ・ササイを撃墜したカールだってやられている。俺たちが生きているのはホームで戦ったからだ」
「そうか、笹井中尉を撃墜したマリオン・カールも一度は撃墜されたのか」
トニーは頷きました。
「ゼロのパイロットはすごかった。これはお世辞ではない。何度も機体を穴だらけにされた俺が言うんだ。本物のパイロットが何人もいた」
私は思わず涙がこぼれました。彼は驚いたようでした。
「ラバウルの空で死んでいった仲間たちが今の言葉を聞けば、喜ぶと思う」
彼は何度も頷きました。
「俺たちの仲間も何人も死んだ。今頃は天国で冗談を言い合ってるかもしれん」
そうであった欲しいと思いました。目の前にいるこんないい男たちと殺し合った過去が悲しくてなりませんでした。
トニーは陽気で明るい男でした。孫が五人もいるんだと言って、写真を見せてくれました。今も元気でいるのでしょうか ──。
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