今西と吉村との二人は渋谷駅から井の頭線に乗った。途中の下北沢駅で小田急に乗り換え、六つ目の駅でおりた。
駅前の短い商店街を通ると、このあたりは新開地らしい住宅地が雑木林の間に点在していた。稲が色づいていた。
バスが通る道を二人は歩いた。
稲田の向うに住宅があり、その後ろに林がつづき、また住宅の丘が続いた。郊外らしい地形だった。
「ここだよ」
今西は立ちどまった。
吉村の希望で、宮田邦郎が心臓麻痺を起こして死んだという地点に今西が案内して来たのだった。
「なるほど、ここですか」
吉村は今西のさした辺りに目をやった。国道から五メートルぐらい、狭い路に引っ込んだところだった。足もとに夏草が生い茂っている。
「バスの停留所はすぐそこですね」
実際、二人の立っている所から一メートルと離れていない所に、バスが客をおろしていた。
「これだと、宮田邦郎がバスを待っていたという想定は、あながち無理ではないですね」
「そうだ、それは不自然ではない。あ、吉村君」
今西は急に思い出したように言った。
「あのバスの車掌さんに、ここを通る夜八時ごろのバスは、正確に何時と何時があるか聞いてくれないか」
吉村は駆け出した。発射間際のステップに足をかけた車掌をつかまえて、吉村は何か聞いていたが、バスが出ると同時に、吉村も引き返して来た。
「わかりました」
吉村は伝えた。
「七時四十分に成城行のバスが通ります。八時には吉祥寺行のバスが通り、十分後にはまた成城行が通ります。そのあとニ十分ほど切れて、また千歳烏山から成城に向かうバスが通るそうです。あとは上下線ともニ十分間隔ですから、ここでは約十分ごとにバスが往復する勘定になります」
今西はそれを聞いていたが、
「ずいぶん、頻繁に通るんだね」
と呟いた。
「宮田邦郎の死亡時刻は、だいたい午後八時となっている」
と、彼はつづけた。
「すると、彼がこの停留所付近で待っていたと仮定すると、バスの間隔はだいたい十分としてその間に心臓麻痺が起こったことになる。もちろん、この十分間は正確ではない。上下線が必ずここでそ9の間隔で通るとは限らないからズレはあるわけだな。だが、いずれにしてもそれほどの長い時間は待っていなかったわけだ。その間に心臓麻痺の発作が起こったとすると、宮田はよほど運が悪かったことになる」
今西の呟きは、考えながら自分に言い聞かせているようだった。
だが、このひとりごとは吉村には聞えなかった。彼は今西から離れて道の傍の畑の中を歩いていたからだ。
「今西さん」
吉村が畑の中に背を屈めて叫んだ。
今西は、吉村の呼ぶ方に行った。
「こんなものが落ちていますよ」
吉村は地面をさした。草むらの間に、十センチ四方の紙片が落ちている。もっとも、それは端が不規則にちぎれていた。
「何だろうね?」
今西は、その紙片を取りあげた。落ちていた時は裏側になっていたので何も見えなかったが、裏を返すと文字が書いてあった。
「ほほう、表ですね」
吉村が覗いた。
それには次のようなことが列記されてあった。 |