今西栄太郎は、いったん、外に出た。
映画館で写す映画は、劇映画とニュース映画だけと思っていたが、なるほど、予告編もあるのだ。それはわかっていながら、つい付録のような気がして思いつかなかった。こんなところにあんがい盲点があった。
今西は一時間ばかりぶらぶら外を歩いて、映画会社に戻った。
「ああ、わかりましたよ」
係り員は、今西の顔を見て、さっそく、席を立って来た。
「次週封切りの予告編の方はありましたがね。洋画の予報編は、やはり処分しています。惜しかったですね。たった三日前に屑屋に払ったばかりですよ」
次週封切りの予告編だけを見せてもらったが、まり役に立たなかった。
『遥かなる地平線』というのだが、ただ場面のつなぎ合わせで、それに監督やカメラマンの姿がうろうろ写っているだけだった。
これは三分ぐらいであっけなくすんだ。
「どうも、たびたび、お世話さまです」
今西は係りの者に恐縮した。昨日から彼のために、結、四本を試写してもらったわけだ。
「予報編というのは、洋画でしたね?」
「そうです」
それは、すでにフィルムが切断されて、屑屋に処分したというのである。
「映画の題名は、何という名でしたか?」
「『世紀の道』というんです」
「それには、映画の場面のほか、ロードショウの公開風景がついているわけですね。確か、そう聞きましたが」
「そうなんです」
「プリントは何本かあるわけでしょうが、一本ぐらい、どこかに残っているということはありませんか?」
「さあ、ちょっと、考えられませんね。処分するとすれば全部ですからね。しかし、お話しはよくわかりましたから、どこかに残っていたら、必ず、お知らせしましょう」
「ぜひ、お願いします」
今西としては、そう言うほかはなかった。処分したとなると、これは、どう探しようもない。
プリントがないのは残念だが、ほかに方法がないわけではない。
今西は吉村に電話をした。
「この間は失礼」
「いや、失礼しました」
吉村は言った。
「吉村君、君は映画が好きかね」
「何ですか、突然。それは好きは好きですけれど」
「『男の爆発』というのを見たかい?」
吉村の声が電話で笑っていた。
「それは、見なかったですよ」
「そうかね」
今西はちょっとがっかりした。が、必ずしも、その『男の爆発』のときだけ、『世紀の道』の予報編が上映されたとは限らない。
「君、『世紀の道』という洋画を見たかね?」
「ええ、それは見ました」
「では、その予報編はどうなんだね?」
「予報編というと、ずっと前から宣伝するやつですね?」
「そうだ、そうだ」
「ええと・・・あ、見ました」
「見たかね?」
「ええ、ロードショウの風景を記録したやつでしょう?」
「そうだ」
今西は叫んだ。
実際、それは叫んだと言っていい。
「君、さっそく、今日会いたいんだがね。その話を詳しく聞きたい」
「映画の話しですか?」
「そうなんだ。その予報編の内容だが、ぼくと会うまでに、出来る限り思い出してきてくれたまえ」 |