吉村はおしまいまで、それに、目をとおした。
「今度はこれだ」
と、つづけさまに今西は手帳を繰った。
「これを見なさい」
吉村がのぞくと、それは、いつか今西と一緒に宮田邦郎の死んだ現場で拾った模造紙の紙片だった。 |
「失業保険金給付総額
昭和二十四年 ────
二十五年 ────
二十六年 ────
二十七年 ────
二十八年 二五、四〇四
────
────
二十九年 三五、五二二
────
────
────
三十年 三〇、八三四
────
────
・・・・・・・・・・・・・・・」
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「これは失業保険金給付総額だな」
「そうでしたね」
「君、これは宮田邦郎の死と関係があると思うかい?
「あのときもそれが問題になりましたね。やっぱり、つながりがあるんですか?」
吉村が先輩の顔を見つめた。
「ある、と言いたいね」
今西は言った。
「あの時は、だれかが偶然にあの場所に落としたものと思っていたが、いまは逆の見方が強くなった。つまりだね、あれは、ある人物がわざとあの草むらに落としたのだ」
「わざとと言いますと?」
「どういう心理だろうか、ぼくにはよくわからないが、ある人物の一つの挑戦とみられないこともない」
「挑戦ですって?」
「人間は、心が驕ってくると、そういう気持になるものだ。どうだ、これはわかるまい、といったようなせせら笑いがしたくなるものだ。これがそうだと思う」
「しかし、これは保険金の給付額ですよ」
「そうだ、たしかにそれに間違いない。ぼくはこの数字に疑問をもって、一応調べてもらった。わざわざデタラメを書く理由がないから間違いはないと思ったが、念のため調べてみた。すると、全く、この数字はごまかしようのない本モノだった」
「この数字と宮田邦郎の死と、どういう関係があるのですか?」
「よく見たまえ。これに、金額の書いていない部分があるね。ほら、二十八年と二十九年、三十年にはある。ところが二十四年から全部脱けて、二十八年と二十九年の間は二つの棒が引いたある。まあ、二十七年前は省略したとしても、二十八年と二十九年の間に、それぞれ空白があるのは、なぜだろう?」
「さあ、わかりませんね」
「ぼくも、はじめは統計上の意味がると思っていた。しかし、よく考えてみると、これはおかしい。何もわざわざ、間を空白にすることはない」
「では、その空白にも特殊な意味があるのですか?」
吉村は失業保険金給付総額を身ながら聞いた。
「ある、と思うね。今までそれに気づかなかった。ただし、この空白の欄が昭和二十八年、二十九年の間、つまり、同年の間に、二回、三回と給付がなかった。これはただ省略したと思うだろう。それは逆だった。なにも意味なしに引かれた空白だ。ただし、それは統計表として見る場合だね」
「よくわかりませんが」
吉村は頬杖をついた。
「このこの失業保険金給付額は、それぞれ、二五・四〇四、三五・五二二となっている。この数字だけを普通に読むと、二万五千四百四、三万五千五百二十二となる。むろん、この表では、金額的には別な単位になるだろうが、数字だけを見ると、そういう呼び方になるわけだ。ぼくはさっき音響のことを君に受け売りしたね」
「はあ」
「つまり、音はくぁんまり低くても人間の耳に聞こえず、あんまり高くても聞こえないのだ。普通の人間には、二万サイクル以上になると、もう音という感じがしなくなる・・・」
「あ、わかりまし。では、この二万五千、三万五千、三万、二万四千、二万七千、二万八千というようなものは、高周波数をあらわしているわけですね」
「そうだ。つまり、超音波だ。いわばこの保険金給付額というのは、超音波の高周波案配表とでもいうかな」
「・・・・・」
「もちろん、ほんとうにそれだけの周波を出す青写真になっているかも知れない」
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2025/07/31 |
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