~ ~ 『 寅 の 読 書 室 Part Ⅶ-Ⅷ』 ~ ~

 
== 『日 本 国 紀 (上)』 ==

著 者:百 田 尚 樹
発 行 所:幻 冬 舎 文 庫
 
 
 
 
 
コラム-08
『源氏物語』は、宮中を舞台に主人公の 光源氏 ひかるげんじ の一生を描いた物語です。そこには光源氏の栄光と没落、そして華麗なる恋が描かれています。
下級貴族出身の紫式部は二十代で藤原 宣孝 のぶたか と結婚し一女をもうけたものの、三年後に夫と死別し、その悲しみを忘れるためにこの物語を書き始めたという説があります。やがて知人たちの間で評判になり、当時、貴重品だった紙を提供してくれる者が次々と現れ、紫式部はそのたびに続きを書いていったといわれています。そしてついに全五十四帖からなる大長編小説を完成させたのです。約百万字、四百字詰め原稿用紙に換算して二千五百枚の長さですから、当時としては桁外れの長編といえます。
なお、紫式部は本名ではありません。彼女の父の役職(式部)に作中の「紫の上」の紫を付けて、そう呼ばれているという説が有力です。清少納言も本名ではありません。彼女の父の清原元輔きよはらのもとすけの「清」の字に役職名である「少納言」を付けたものですが、清原元輔は少納言の地位には就いておらず、娘がなぜ清少納言と呼ばれたかは実はわかっていません。当時、女房と呼ばれる女性たちは本名をみだりに明かすことはなく、現代でも彼女たちの本名はわかっていません。
ともに才女を謳われた二人ですが、宮中に仕えていた時期は異なり、面識はなかたっといわれています。ただ、紫式部は「紫式部日記」で清少納言の文書を酷評しています。「清少納言こそしたり顔にいみじうはべりける人さばかりさかしたち真名書きちらしてはべるほどもよく見ればまだいと足らぬこと多かり」(清少納言は得意げに漢字を書き散らしているが、よく見ると間違いが多い)。この文章には、同時代の作家に対する剥き出しのライバル心が顕れていて、同じ作家の私などは微笑ましく感じると同時に、紫式部の人間らしさを感じます。
2025/08/30
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