~ ~ 『 寅 の 読 書 室 Part Ⅶ-Ⅷ』 ~ ~

 
== 『日 本 国 紀 (上)』 ==

著 者:百 田 尚 樹
発 行 所:幻 冬 舎 文 庫
 
 
 
 
 
江戸時代
江戸時代はある意味で日本の近代だといえます。
唯物史観の歴史家の中には、江戸時代を「前近代的な文化の遅れた時代」であるかのように捉える者がいますが、それは誤りです。明治維新後、あっという間に西洋に追いつくことが出来たのは、江戸時代の日本人にそうした蓄積があったからです。
江戸時代は、百年続いた戦乱の時代が終わり、社会制度が急速に整い、国家秩序が安定した時代でした。世界に先駆けて貨幣経済が発達し、豊かになった庶民による文化が花開きます。徳川幕府の統治が安定していた約二百六十年間は、大きな戦争は一度もなく、日本の歴史上、最も平和で治安の良かった時代であったともいえます。
同時代のヨーロッパ諸国と比べても、国民の民度も知的レベルもともに高く、実質的な首都である江戸の町もパリやロンドンなどよりもはるかに清潔でした。十七世紀にすでに水道や下水道が完備していたのは驚異的です。ただ、文化レベルは高かったものの、鎖国政策によってヨーロッパからの科学技術の流入がなかったため、テクノロジーの分野で大きく後れを取ったのは事実です。また国内の安定を重んじて変化を恐れたため、後半になると、社会の様々な制度に、硬直した考え方による弊害が生じました。そのために幕末に大きな混乱が生まれることになります。
2025/10/09
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