さて、この楊�ｻ (ヨウショウ) 、口だけが達者な無頼の徒であったが、楊貴妃の父玄？ (ゲンエン) が早く死んだ時、遺族の面倒を見ると称して、楊貴妃の姉ののちの？国 (カクコク) 夫人を犯したり、財産をちょろまかして博打につぎこみすってんてんになったりなどしていた。するうちに、蜀 (ショク) を治める剣南 (ケンナン) 節度使の章仇兼瓊 (ショウキュウケンケイ) の幕僚となった。この節度使は、楊�ｻがいまや飛ぶと鳥も落とす楊貴妃の遠縁であるのに目をつけ、鮮于仲通 (センウチュウツウ) なる土地の富豪と結託して、莫大な金品を楊�ｻに預け長安に旅立たせた。
章仇兼瓊のもくろみはうまく図に当り、楊貴妃や？国 (カクコク) 夫人のおかげで玄宗に拝謁したちまち金吾兵曹参軍という近衛将校にとりたてられた楊�ｻの口ぞえで、戸部尚書 (コブショウショ) すなわち大蔵大臣となった。恐らく博奕の才のせいであろうが、楊�ｻは金銭の計算に異才あり、章仇兼瓊の仕事を手伝っているうち、もれままた玄宗のお褒めにあずかり監察御史 (カンサツギョシ) に抜擢されるというありさま、口舌だけを武器とした楊�ｻの権力への道は、驚くほどスムーズに開けていたのである。
そのころの玄宗の朝廷を牛耳っていたのは宰相の李林甫 (リリンポ) である。
彼はその李という姓からもわかるように、唐室の一族であったが、しかし玄宗との血縁は遠い。学問もなく言葉使いも野卑であったのに、開元二十二年 (734) 以来宰相の地位にあり、楊�ｻが入内し玄宗に引き立てられたときは、すでに十年以上の在任であった。
李林甫ばかりではない。れいの安禄山も天宝元年 (742) には玄宗朝の政治の舞台に登場していた。楊�ｻ の登場は、楊玉環が貴妃に列せられた天宝四載 (745) であるからこれで玄宗朝の幕引きをつろめる立役者三人は、すべて出揃ったことになる。
この三人が、玄宗と楊貴妃の破局に向けてそれぞれどのような動きをするのかについては、後で見ることとし、楊貴妃も一族がこうむった恩寵について語ることとしよう。
楊貴妃には姉が三人おり、すでに崔 (サイ) 氏 ・裴 (ハイ) 氏・柳 (リュウ) 氏 に嫁いでいたが、天宝七載 (748) 、この三人をそれぞれ韓国 (カンコク) 夫人・？国 (カクコク) 夫人・秦国 (シンコク) 夫人 に列した。国夫人とは、列侯や高官の母や妻に与えられる尊称であるが、寵妃の姉妹に贈られることが多かった。韓・？ (カク) ・秦 いずれも古代の国名だが、国夫人に冠して称号とするだけのことである。
三人いずれも才色に富み、ために玄宗は 「姨 (イー) (おねえさま) 」 と呼んで、宮廷への出入りも自由なのはもちろん、様々な恩寵を与えて、その権勢並ぶものがなかった。