詩の生命は暗示にして単なる事象の説明に非ず。かの筆にも言語にも言ひ尽し難き情の限りなき振動のうちに幽かなる心霊の欷歔をたづね、縹渺たる音楽の愉悦に憧れて自己観想の悲哀に誇る、これわが象徴の本旨に非ずや。
されば我らは神秘を尚び、夢幻をを歓び、それが腐爛したる頽唐の 紅を慕ふ。哀れ、我ら近代邪宗門の徒が夢寐にも忘れ難きは青白き 月光のもとに欷歔く大理石の嗟嘆也。暗紅のうち濁りたる埃及の濃霧
に苦しめるスフィンクスの瞳也。あるはまた落日のなかに笑へるロマン チッシュの音楽と幼児磔殺の前後に起こる心状の悲しき叫也。かの黄 臘の腐れたる絶間なき痙攣と、ヴィオロンの三の絃を擦る嗅覚と、曇
硝子にうち噎ぶウヰスキイの鋭き神経と、人間の脳髄の色したる毒艸 の匂深きためいきと、官能の魔睡の中に疲れ歌う鶯の哀愁もさること ながら、仄かなる角笛の音に逃れ入る緋の天鵝絨の手触りの棄て難
さよ。
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