「謀反」は『邪宗門』中の傑作である。この詩は明治四十一年一月、第一次『新思潮』第四号に発表されたものだが、その想像力のスケールに於いて、また象徴力のエネルギーにおいて白秋の他の作品に見られないものがある。
晩秋の空を血の色に染める夕焼けに触発された幻想だが、その幻想はまた無辜の世界における「悪」の蜂起といった内面的異変の象徴ともなっている。
毒と火と血の反逆的な戦乱の恐怖と戦慄のイメージによって暗喩され、それが切迫の気息をもって主体的に構成されている。
白秋の詩の多くは直接的な鋭さで幾分自然発生的に生みだされているが、この詩のようにある知的操作によって構成的に組みあげられた作品はめずらしい。
この作品は、そにイメージが、『海潮音』中のエミール・ヴェルハーレンの「火宅」に類似している点が、後生の評家によって指摘されている。
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